「冬は念入りにアップせなあかん」
これ自体は、間違っていません。ただ、「念入り」を「長く」だと思っている人がとても多いです。
アップの時間を30分に延ばしても、その30分のあいだに立ち止まっている時間が長ければ、体は温まりません。冬に効くのは、そこやないんです。
先に結論だけ知りたい人へ
冬のアップでやることは「長くすること」ではありません。
キックオフまで、体温が落ちる時間を作らないことです。
そしてアップは、グラウンドで始まりません。暖かい部屋を出る前から始まっています。
前回の記事で、冬に落ちるのは「最大の力」ではなく「力の立ち上がりの速さ」という話を書きました。今回はその続きで、じゃあ現場で何をしているかです。
アップの前に、もうひとつアップがある
僕が冬にいちばん気をつけているのは、これです。
グラウンドに出る前に、暖房の効いた部屋で先に動いておく。
ストレッチと、動的なものを軽く。ロッカーでも、控室でも、廊下でもいいです。とにかく暖かいところで、体を一段階上げてから外に出る。
「アップ前のアップ」と呼んでいます。時間にしたら5分から10分です。特別なことは何もしていません。
なぜこれをやるか。寒い外に出た瞬間から、体は冷やされ続けます。ゼロから外で上げようとすると、上げる作業と冷やされる作業を同時にやることになる。だったら、冷やされない場所で先に上げておいたほうが早いです。
実際、これをやった日とやってない日で、グラウンドに出てからの立ち上がりが違います。最初の5分がまったく別物になります。
そして地味ですが、これは道具も金もかかりません。部屋があればできます。冬の対策のなかで、いちばん費用対効果が高いと思っています。
なぜ「外でいきなり」があかんのか
ここは前回の内容とつながります。短くおさらいします。
ウォームアップの研究をまとめた系統的レビュー(Wilson ら, 2025, J Sport Health Sci)によると、筋温が1℃変わるごとに、力の立ち上がりの速さが3.7%(±1.8)変わります。一方で最大筋力はほとんど変わりません。
つまり冬に落ちているのは、ダッシュの一歩目・切り返し・踏み切り・振り抜きです。サッカーで勝負が決まるところが、まるごと遅くなっています。
そして問題は、体が硬いことそのものではなく、温まっていないことです。硬さは結果で、原因は温度です。
ここを取り違えると、対策も外れます。「硬いからストレッチを長くやろう」ではなく、「温まってないから温めよう」です。目的が違えば、やることも変わります。
風呂・シャワーは「使ってもいい」。ただし、そこで終わらない
試合前や練習前に風呂・シャワーが使える環境なら、僕は使ったらいいと思っています。実際、そうしている選手もいます。
ただ、ここは正直に書きます。
「風呂で温まるとパフォーマンスが上がる」という論文を、僕は見かけたことがありません。
理由もはっきりしていて、お湯で温まるのは主に皮膚であって、筋肉の中の温度とは別ものだからです。「温まった気がする」と「筋温が上がっている」は、必ずしも一致しません。
言えること:体が動かしやすくなる、気持ちのスイッチが入る、寒さで縮こまらずに済む
言えないこと:風呂に入っただけで筋温が上がり、動きが良くなる
なので、使い方はこうです。
風呂やシャワーは、そのあとに動くための準備であって、それ自体が目的ではありません。温まったら、そのまま暖かい部屋で「アップ前のアップ」に入る。ここまでが1セットです。
風呂で温まって、そのまま座って待って、寒い外にいきなり出る。これだと、いちばんおいしいところを捨てています。
グラウンドに出てからの中身
ここからは外での話です。僕が夏と変えているのは、3つです。
| 項目 | 冬はどうするか |
|---|---|
| 走る距離 | いつもより長くする。少しハーハー言うくらいまで上げる |
| 動的ストレッチ | 夏より多く入れる。止まって伸ばすのではなく、動かしながら |
| 止まっている時間 | 減らす。説明・整列・順番待ちを削る |
1つ目の「ハーハー言うくらい」は、感覚的な話に聞こえるかもしれませんが、体温を上げにいっているかどうかの、いちばん分かりやすい目安です。息が上がらない強度では、筋温はそこまで上がりません。
2つ目の動的ストレッチも、狙いは同じです。伸ばすためというより、動かして熱を作るために入れています。
ひとつ注意点。「距離を長くする」は「時間を長くする」ではありません。アップの時間そのものを延ばしすぎると、今度は疲れが残ります。同じ時間のなかで、動く量を増やす——これが3つ目につながります。
いちばん大事なのは「止まらないこと」
3つ目が、この記事でいちばん伝えたいところです。
これを裏づける、はっきりしたデータがあります。Mohr ら(2004, Scand J Med Sci Sports)が、実際の試合中に選手の太ももの筋肉の温度を直接測った研究です。25選手が対象です。
| 場面 | 筋温 |
|---|---|
| 安静時 | 36.0℃ |
| 試合前(アップ後) | 39.4℃ |
| ハーフタイム後 | 37.4℃(=2℃落ちる) |
| 後半の途中 | 39.2℃(戻る) |
15分座っているだけで、2℃落ちています。アップで3.4℃上げたぶんの、半分以上が消えている計算です。
そしてこの研究のおもしろいところは、ここからです。ハーフタイムに軽い運動をした8人と、座って休んだ8人を比べています。
後半開始直後のスプリント
座って休んだ群:2.4%低下(統計的に有意)
軽く動き続けた群:低下なし
筋温の下がり幅と、成績の落ち方には相関が見られています(r = 0.60)。
これ、冬のアップの話にそのまま当てはまります。体を温めるのに必要なのは、特別なメニューではなく「止まらないこと」だけです。
逆に言うと、どれだけ良いアップを組んでも、そのあいだに整列と説明で5分止まっていたら、そこで戻ります。冬に削るべきは、メニューの数ではなく、止まっている時間です。
アップが終わってからも、冷める
最後に、見落とされやすいところです。
アップが完璧でも、そのあとキックオフまでに時間が空けば、そこで戻ります。これは前の章の数字がそのまま効いてきます。冷えるのに特別なことは要りません。座っていれば冷えます。
とくに冬に注意がいるのは、この3つです。
- ハーフタイム——15分。Mohr らの研究そのものの場面です
- 交代を待っているとき——ベンチで座って待つ時間がいちばん長い
- アップ後の待ち時間——整列、円陣、選手紹介。意外と冷えます
交代待ちについては、研究もあります。Cowper ら(2025, Physiological Reports)が、2℃の環境で交代出場を想定した実験をしています。太ももやふくらはぎを温める発熱ウェアを着けて60分待った選手は、15mスプリントが2.8%速かった(p<0.001)という結果でした。「暖かい」「準備できている」という体感も上がっています。
ただし、この研究には限界もあります。著者自身が「筋温は測っていない」と書いています。速くなったことは測れていますが、それが筋温のおかげかどうかまでは、この研究では確かめられていません。
現実的にできること。発熱ウェアがなくても、やることは同じです。上に1枚着る。そして座り続けない。交代前は立ってボールを触る、ハーフタイムの後半5分は動く。これだけで、Mohr らの実験でいう「軽く動き続けた群」と同じことをしています。
遠征先で暖かい部屋がない、という場面もあると思います。そのときは着るもので代用するしかありません。上に1枚多く着てアップして、外す時間をできるだけ後ろにずらす。理屈は変わりません。「熱を作る」と「逃さない」の2つしかないので、部屋が使えないなら、逃さないほうに寄せます。
まとめ
- 冬のアップは長くするものではない。体温が落ちる時間を作らないこと
- 暖かい部屋で先に動いてから外に出る(アップ前のアップ)。5〜10分でいい
- 風呂・シャワーは使ってもいいが、温まるのは皮膚。そのあと動くまでがセット
- グラウンドでは距離を長く・少しハーハー言うくらい・動的ストレッチを多め
- いちばん効くのは止まっている時間を減らすこと
- 研究では、15分座るだけで筋温が2℃落ち、スプリントが2.4%低下。軽く動けば低下なし
- アップ後・ハーフタイム・交代待ちでも冷める。1枚着る、座り続けない
この記事で参照した研究
- Muscle temperature and sprint performance during soccer matches – beneficial effect of re-warm-up at half-time(Mohr ら, Scand J Med Sci Sports, 2004) — 25選手。筋温は安静36.0℃、試合前39.4℃、ハーフタイム後37.4℃。ハーフタイムに軽い運動をした8人は後半開始のスプリントが低下せず、座って休んだ8人は2.4%低下(P<0.05)。筋温低下と成績低下に相関(r = 0.60)
- The effect of muscle warm-up on voluntary and evoked force-time parameters: A systematic review and meta-analysis(Wilson ら, J Sport Health Sci, 2025) — 33研究・921名。筋温1℃あたり、力の立ち上がりは+3.7%(±1.8)、最大筋力は−0.2%(±0.9)
- The influence of passive heating garments worn in temperate and cold conditions prior to simulated performance for male soccer substitutes(Cowper ら, Physiological Reports, 2025) — 14名。2℃および18℃の環境。発熱ウェア着用で15mスプリントが2.8%(2℃)・2.6%(18℃)改善(p<0.001)。著者は限界として、筋温を直接測定していないこと、アップと測定を約18℃の環境で行ったことを挙げている
※ 研究の結果がすべての選手に当てはまるわけではありません。また、風呂・シャワーによる事前加温が競技成績を高めるという研究は確認できていません。本文中の「アップ前のアップ」は、現場での実践であり、その形式で検証された研究に基づくものではありません。
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しっかり温めても、動きが戻らない人へ
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医師による診断・治療に代わるものではありません。効果には個人差があります。痛みがある状態での運動は避け、症状が続く場合は医療機関にご相談ください。