「まだいけます」
シーズン終盤、これを言う選手ほど危ないです。本人に嘘はありません。本当に、まだいけると感じているんです。
ただ、怪我をするかどうかは、本人の感じ方だけでは決まりません。
先に結論だけ知りたい人へ
怪我が増える時期は、
日程表を見れば先に分かります。
試合の間が4日以内に詰まった期間は、怪我が増えると報告されています。そして日程は、たいてい何ヶ月も前から決まっています。しんどくなってから判断するのではなく、元気なうちに「この週は削る」と決めておく。それだけの話です。
疲労は「自分の感じ方」だけで決まらない
疲れているかどうかは、自分がいちばん分かる——と思われがちです。
半分は当たっています。だるさが何日続くか、朝起きたときの気分。そういうサインは本人にしか分かりません。そこはオーバートレーニングのサインと休む判断に書きました。
ただ、もう半分は、自分の感覚の外にあります。
体が壊れるかどうかは、「どれだけ疲れているか」だけでなく「どれだけ休む時間があるか」で決まります。そして休む時間は、自分では決められません。日程が決めます。
ここが、この記事の出発点です。自分の感覚を見るのとは別に、カレンダーを見る必要があります。
試合が4日以内に続くと、怪我が増える
ここには、まとまった研究があります。
Page ら(2022, Sports Medicine)が、プロサッカーの「過密日程」と怪我の関係を調べた8つの研究をまとめました。ここでいう過密日程とは、試合と試合の間が4日以下のことです。
| 研究 | 過密のとき | 通常のとき |
|---|---|---|
| Dupont ら | 97.7 | 19.3 |
| Dellal ら | 43.3 | 18.6 |
| Howle ら | 50.3 | 44.8 |
Dupont らの研究では5倍になっています。
ただし、正直に書いておきます。差が出なかった研究もあります。8つのうち5つで有意に増え、残りでは差がありませんでした。著者も「研究どうしのばらつきが大きく、統合した解析ができなかった」と限界を挙げています。
それでも、レビュー全体の結論は「過密日程では怪我のリスクが上がる」です。向きは一貫しています。
ただし「大怪我が増える」ではない
ここが、意外と知られていないところです。
同じレビューで、怪我をしたあとの離脱期間も調べられています。
| 研究 | 過密のとき | 通常のとき |
|---|---|---|
| Carling ら | 2.0日 | 7.9日 |
| Dellal ら | 9.5日 | 17.5日 |
件数は増えるのに、1件あたりは軽い。
つまり過密日程で増えるのは、シーズンが終わるような大怪我ではなく、「数日抜ける細かいもの」です。張り、軽い肉離れ、足首のひねり。そういうものが積み重なります。
ここが、逆に厄介です。1件2日なら「たいしたことない」で済ませてしまいます。でもそれが何度も起きるということは、体が持ちこたえていないというサインです。
細かい怪我が増えてきたら、それ自体が警告だと思ってください。
シーズンの中盤から終盤に、いちばん増える
怪我が多い時期そのものを調べた研究もあります。
3シーズンを追った調査(J Funct Morphol Kinesiol, 2026)では、シーズンの中盤から終盤にかけて、怪我の発生率がいちばん高かったと報告されています。いちばん多かったのは筋肉の怪我でした。
著者は、この時期こそ体の状態と練習量を見ておくべきだとしています。
理由は想像がつきます。シーズン序盤は、体が新しく、日程もまだ詰まっていません。終盤は、疲労が積み上がったところに、順位のかかった試合が詰まってくる。いちばん強度が上がる時期と、いちばん体が削れている時期が、重なります。
そして、ここも正直に書いておきます。この調査は本文を確認できていません。タイトルと結論の要約から書いています。月単位でどう分布していたかまでは、分かっていません。
選べないものと、選べるもの
ここまでの話を、整理します。
| 自分では選べない | 自分で選べる |
|---|---|
| 試合の日程 | 練習で何をやるか、どれだけやるか |
| 試合の間隔 | 寝る時間 |
| シーズンの長さ | 食べる量 |
| 監督のメンバー選び | ケアをするかどうか |
左の列は、どうにもなりません。「試合が多すぎる」と言っても、日程は変わらない。
だから、左が厳しい時期ほど、右で調整するしかないということになります。
ここでよくある間違いが、これです。
試合が続いて調子が落ちてきたときに、「走り込みが足りないからだ」と練習を足す。
増やすべきときと、減らすべきときを取り違えています。過密日程の最中は、足す時期ではありません。
日程表を、先に見る
ここから具体的な話です。やることは単純です。
シーズンの日程を出して、試合の間が4日以内になっているところに印をつけてください。
やり方
- リーグ戦・カップ戦・練習試合を全部同じカレンダーに書き出す
- 試合と試合の間隔を数える
- 4日以内で続いているところに印をつける
- 移動をともなう試合があれば、そこにも印(移動日は休養日になりません)
サッカーの日程は、たいてい先に分かります。急に来るものではありません。それなのに、多くの場合「気づいたら連戦だった」という扱われ方をしています。
印をつけた週が、この記事でいう危ない週です。
学生の選手は、ここに学校の予定も足してください。テスト期間、修学旅行、合宿。寝る時間が削られる週も、体にとっては同じことです。日程表はサッカーだけのものではありません。
その週で何を削るか、元気なうちに決めておく
印をつけたら、次はこれです。
その週に入る前に、「何を削るか」を決めておいてください。
なぜ先に決めるのか。理由は1つです。
しんどくなってから決めると、たいてい削れません。
疲れているときほど「自分は大丈夫」「ここで休んだら置いていかれる」と思います。判断が鈍っているときに、判断させてはいけません。
決めるのは、元気なうちです。
削る順番の考え方を出しておきます。これは競技レベルや立場によって変わるので、あくまで一例です。
| 順番 | 削るもの | 理由 |
|---|---|---|
| 1番目 | 追加の筋トレ | 試合が近い時期の高強度は、回復を圧迫する |
| 2番目 | 全力ダッシュの本数 | 速い走りは負担が大きい。試合で足りている |
| 3番目 | 練習時間そのもの | 質を保ったまま、量を落とす |
| 削らない | 寝る時間・食べる量・ウォームアップ | ここを削ると、リスクが上がる方向にしか働かない |
いちばん下の行が大事です。忙しい週ほど、真っ先に削られるのが睡眠と食事です。でもそこは、削ってはいけない側です。
削るものを決めたら、口に出しておいてください。自分の中だけで決めても、その週になったら忘れます。指導者やチームメイトに言っておくと、戻しにくくなります。
それでもサインが出たら、そっちが優先
最後に、線を引いておきます。
この記事は「先に決めておく」話です。カレンダーを見て、元気なうちに準備する。
でも、実際に体からサインが出たら、日程の話より、そっちが優先です。
- だるさが何日も続く、寝ても戻らない → オーバートレーニングのサインと休む判断
- 疲れの種類を見分けたい → 「筋肉の疲れ」と「脳の疲れ」を見分ける
- 試合後・翌日に何をするか → 試合翌日の過ごし方
計画は、体より優先されません。先に決めておくのは、判断を楽にするためであって、無理をするためではありません。
まとめ
- 疲労は「自分の感じ方」だけで決まらない。休む時間があるかどうかで決まる部分がある
- 試合の間が4日以内に詰まると、怪我が増えると報告されている(研究によっては5倍)
- ただし差が出なかった研究もある。統合した解析はできていない
- 増えるのは大怪我ではなく「数日抜ける細かいもの」。それが続くこと自体が警告
- 怪我はシーズンの中盤から終盤に最も多いと報告されている
- 日程は選べない。だから練習・睡眠・食事で調整するしかない
- 日程表を先に見て、4日以内の連戦に印をつける
- 削るものを、元気なうちに決めておく。睡眠・食事・ウォームアップは削らない
この記事で参照した研究
- The Effects of Fixture Congestion on Injury in Professional Male Soccer: A Systematic Review(Page ら, Sports Medicine, 2022;53(3):667–685) — 8研究の系統的レビュー。過密日程は「試合間の回復が4日以下」と定義。試合中の怪我の発生率(1,000時間あたり)は Dupont ら 97.7 対 19.3、Dellal ら 43.3 対 18.6、Howle ら 50.3 対 44.8 などで、8研究中5研究が有意な増加を報告(差がなかった研究もある)。離脱期間はむしろ短く、Carling ら 2.0日 対 7.9日、Dellal ら 9.5日 対 17.5日。著者は、研究間の方法のばらつきが大きくメタ分析ができなかったこと、選手のローテーションや練習負荷、ポジション別のリスクを考慮できていないことを限界として挙げている
- Injury Incidence in Professional Football Is Highest During Mid- and Late-Season: A Three-Season Retrospective Cohort Study(J Funct Morphol Kinesiol, 2026;11(3):333) — 3シーズンの後ろ向きコホート研究。シーズン中盤から終盤にかけて、曝露時間で調整した怪我の発生率が最も高い。筋肉の怪我が最大のカテゴリ。※この文献は本文を参照できておらず、タイトルおよび公開されている結論の要約に基づいて記載している
※ 引用した研究はいずれもプロ選手を対象としたものです。学生・アマチュアにそのまま当てはまるとは限りません。本記事で示した「削る順番」は一例であり、競技レベル・立場・チームの方針によって変わります。
Consultation
終盤になると、毎年同じところをやる人へ
シーズンの後半になると決まって同じ場所が痛くなる。細かい怪我が続いて、なかなか抜けきらない。そういうときは、疲労そのものより、体の使い方や左右差が背景にあることがあります。S.T.R鍼灸院では、動きを確認したうえで、日程とどう折り合いをつけるかも含めて一緒に考えます。お気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちらS.T.R鍼灸院(大阪・福島区)
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医師による診断・治療に代わるものではありません。効果には個人差があります。痛みが続く場合や、休んでも回復しない場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。