先に、いちばん大事なことを書いておきます。理想は9時間。でも、無理な日は無理です。
「9時間寝ましょう」とだけ書いてある記事を読んで、「いや、練習21時までやのに無理やん」と閉じた人もいると思います。その通りなんです。だからこの記事では、目安の数字と、それが取れない日にどうするかの両方を書きます。
結論:何時間寝ればいいのか
まず、一般的な推奨から。米国の National Sleep Foundation が出している年代別の目安です。
| 年代 | 推奨される睡眠時間 |
|---|---|
| 14〜17歳(中学生・高校生) | 8〜10時間 |
| 18〜25歳(大学生・若い社会人) | 7〜9時間 |
そのうえで、アスリートは一般の人より長く必要とされ、アスリートの睡眠に関するレビューでは9〜10時間という数字も出ています。毎日ハードに練習して体を壊しているのだから、直す時間も長く要る、というのは理屈としても自然です。
僕が選手に伝えているのは、「最低でも8時間、理想は9時間」です。8時間を下限にしているのには理由があって、前回の記事で紹介したとおり、中高生アスリートで睡眠8時間未満だと怪我のリスクが約1.7倍という研究(Milewski ら, 2014)があるからです。
ただし「全員9時間」が正解ではない
ここは正直に書いておきたいところです。
2021年に発表された専門家の合意文書(Walsh ら, British Journal of Sports Medicine)では、「7〜9時間」のような一律の推奨は理想的とは言えず、選手ごとに個別化すべきという指摘がされています。必要な睡眠時間には、はっきりした個人差があるからです。
つまり8〜10時間は「目安の幅」であって、ノルマではありません。8時間で足りる人もいれば、10時間必要な人もいる。大事なのは、自分がどちらなのかを知ることです。
自分の適量を見つける3つのチェック
特別な機械は要りません。次の3つで、だいたい分かります。
- 朝、目覚ましなしで起きられるか(毎回アラームで叩き起こされているなら足りていない)
- 日中に強い眠気がないか(授業中や移動中に落ちるのはサイン)
- 休みの日に寝だめしていないか(休日に2時間以上多く寝るなら、平日が不足している)
3つとも問題なければ、いまの睡眠時間はあなたに合っています。1つでも当てはまるなら、30分ずつ増やして様子を見てください。
夜遅くまで練習がある日は、どうするか
ここが本題です。日本の中高生にとって、これがいちばんの現実問題だと思います。
21時まで練習、帰宅して22時、飯と風呂で23時。ここから9時間寝ようとすると、起床は朝8時。学校に間に合いません。
まず「無理な日は無理」と認める
身も蓋もないですが、これが出発点です。取れない日は取れない。それを認めずに「9時間寝られなかった」と落ち込むほうが、よっぽど良くない。
大事なのは、それを毎日にしないことです。週に何日かは仕方なくても、それが常態化すると、疲労が積み上がって戻らなくなります。
⚙深掘りメモ:1日足りないより「毎日ちょっとずつ足りない」ほうが危ない
一晩眠れなかっただけなら、体は比較的すぐ戻せます。厄介なのは、毎日1〜2時間ずつ足りない状態が何週間も続くことです。本人は「まあ寝てるし」と思っているのに、少しずつ借金が積み上がっていく。
そして怖いのは、その状態に慣れてしまうと、自分では不足に気づけなくなることです。だから「朝眠い」「動きが鈍い」といった外から見えるサインが、判断材料として役に立ちます。
それでも下限を割らないための工夫
9時間が無理でも、8時間は死守する方向で考えます。逆算すると、削れるところは限られています。
| 見直すところ | 考え方 |
|---|---|
| 帰宅後のスマホ | ここが最大。「ちょっとだけ」で30分〜1時間が消える。しかも寝つきも悪くなる |
| 風呂の時間 | 眠りに入りやすいのは寝る1時間半ほど前。帰宅後すぐ入ると逆に整う |
| 食事のタイミング | 遅すぎると寝つきが悪くなる。練習後に軽く補給して、帰宅後は重くしすぎない |
| 起きる時間 | 朝練がないなら、朝を少し遅らせるのも手。ただし毎日バラバラにしない |
※ 就寝・起床の時刻は、できるだけ毎日そろえるほうが体は楽になります。バラバラだと、同じ時間寝ていても回復しにくくなります。
昼寝で補う(最大30分)
夜が足りない分は、昼寝で多少は補えます。エリートラグビー選手を対象にした研究でも、1時間未満の昼寝で午後のパワーが上がり、疲労感や筋肉痛の感じ方が軽くなったと報告されています。
ただし僕が選手に言っているのは「昼寝は最大30分」です。それ以上寝ると深い眠りに入ってしまい、起きたときにかえってボーッとして、夜も眠れなくなるからです。
昼寝のルール
・長さは最大30分(それ以上は逆効果になりやすい)
・午後3時までに済ませる(遅いと夜の睡眠に響く)
・夜の睡眠の代わりにはならない。あくまで補助
試合前後の睡眠
試合前夜に眠れないとき
緊張で眠れない。これは珍しいことではありません。大事な試合の前ほど起こります。
まず知っておいてほしいのは、一晩眠りが浅かったからといって、翌日のパフォーマンスが崩壊するわけではないということ。「寝られへん、どうしよう」と焦るほうが、かえって眠れなくなります。
そのうえで、対策はいくつかあります。
- 前日だけ頑張らない。数日前から睡眠を整えておくほうが効く
- いつもと違うことをしない。普段しないストレッチや入浴を前夜に入れると、逆に落ち着かない
- 早く寝ようとしすぎない。いつもより極端に早く布団に入ると、眠れずに焦る時間が増える
- 眠れなくても横になっておく。体を休めているだけでも意味がある
- カフェイン(コーヒー・エナジードリンク)は夕方以降を避ける
ナイトゲームのあと
夜の試合は、終わったあとも興奮が収まりません。体は疲れているのに、頭が冴えて眠れない。これは交感神経が入りっぱなしの状態です。
照明を落とす、スマホを見ない、ぬるめの湯に浸かるなど、意識的にスイッチを切りにいく必要があります。それでも寝るのが遅くなる前提で、翌日に長めに寝られるようにしておくほうが現実的です。
遠征先で眠れないとき
枕が変わると眠れない、という選手は本当に多いです。そして実際に、マットレスを持参する選手もいます。
やりすぎに見えるかもしれませんが、遠征が続くシーズンでは「どこでも普段どおり眠れること」が実力の一部になります。枕、アイマスク、耳栓——荷物が許すなら、いつもの環境に近づける道具を持っていく価値はあります。
次回:では、睡眠の質そのものを上げるには何をすればいいのか。寝る前の過ごし方から、寝具・環境の整え方まで、具体的な方法を紹介します。
足りているかを、自分で確かめる
最後に、時間だけを追いかけないでほしい、という話をします。8時間眠っていても、質が悪ければ回復しません。逆に、7時間半でも整っている選手もいます。
だから、時計の数字より体に出ているサインを見てください。
| チェック | 足りていないサイン |
|---|---|
| 練習中の動き | 動きが重い、判断が一拍遅い |
| 朝の状態 | 「朝眠い」が続いている、起きるのが異常につらい |
| 休日 | 休みの日に2時間以上寝だめしている |
| 日中 | 授業中や移動中に強い眠気がある |
もっと精度を上げたいなら、疲労を"見える化"する方法で紹介している、毎朝の心拍や主観的な疲労度の記録が役に立ちます。基準値と比べるのではなく、いつもの自分と比べるのがコツです。
現役トレーナーの視点「理想は9時間」と言いますが、無理な日は無理です。それでいい。部活も学校もある中で、毎日9時間なんて取れるほうが珍しい。
だから僕が見ているのは、「取れない日が続いていないか」のほうです。週に1日2日ならどうにでもなる。でもそれが1か月続いていたら、確実にどこかに出ます。動きに出るか、怪我に出るか、気持ちに出るか。
完璧を目指さんでええから、下限だけは割らんとこう。選手にはそう言っています。
!こんなときは相談してください
- 8〜9時間眠れているのに、日中の眠気が強い日が続く
- 眠れない日が2週間以上続いている
- いびきがひどい、寝ている間の呼吸の乱れを指摘された
- 睡眠を整えてもパフォーマンスが落ち続けている
これらは、生活習慣ではなく睡眠に関わる病気や、別の不調が背景にあることもあります。指導者やトレーナーに相談し、症状が続く場合は医療機関を受診してください。
まとめ
- 目安は中高生 8〜10時間/大学生・社会人 7〜9時間。アスリートはさらに長い可能性がある
- 僕が伝えているのは「最低8時間、理想9時間」(8時間未満で怪我リスクが上がる研究がある)
- ただし必要量には個人差がある。一律のノルマではない
- 自分の適量は目覚まし・日中の眠気・休日の寝だめの3つで確かめられる
- 取れない日は取れない。大事なのは、それを毎日にしないこと
- 削るならまず帰宅後のスマホ。風呂は寝る1時間半前が目安
- 昼寝は最大30分・午後3時まで。夜の代わりにはならない
- 試合前夜は前日だけ頑張らない、いつもと違うことをしない
- 時間の数字より、動き・朝のしんどさ・日中の眠気を見る
参考にした研究・資料
- National Sleep Foundation「How Much Sleep Do You Really Need?」
年代別の推奨睡眠時間。14〜17歳は8〜10時間、18〜25歳は7〜9時間。 - Walsh NP ら(2021)「Sleep and the athlete: narrative review and 2021 expert consensus recommendations. British Journal of Sports Medicine」
一律の推奨ではなく、選手ごとの個別化が必要という専門家の合意。 - Daytime naps improve afternoon power...(2023)「Frontiers in Physiology」
エリートラグビー選手の昼寝。1時間未満の昼寝で午後のパワーと主観的疲労が改善。 - Milewski MD ら(2014)「Chronic Lack of Sleep is Associated With Increased Sports Injuries in Adolescent Athletes」
睡眠8時間未満で怪我のリスクが約1.7倍。
※ 研究には対象者や条件があり、結果がそのまますべての選手に当てはまるわけではありません。記事中では、可能な範囲でその限界も書き添えています。
睡眠の全体像を、短くまとめた記事もあります。
何時間寝て、何から変えればいいか——やる順番と年代別の目安を、要点だけ整理しています。
Consultation
寝る時間が取れない、という人へ
練習も学校もある中で、睡眠だけを完璧にするのは現実的ではありません。だからこそ、限られた時間でどう回復させるかが勝負になります。体の状態を見て、いま何を優先すべきかを一緒に整理できます。S.T.R鍼灸院までお気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちらS.T.R鍼灸院(大阪・福島区)
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医師による診断・治療に代わるものではありません。必要な睡眠時間には個人差があり、紹介した数値はあくまで目安です。不眠や強い日中の眠気が続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。