スプリント3部作の最終回です。ここまでで「速さは地面を押す力で決まる」「サッカーは出足=加速が勝負」という話をしてきました。
最後は一歩踏み込んで、走りは1本のなかで局面ごとに体の使い方が変わること、そしてシーズンを通して"いつ何を鍛えるか"を整理します。少し専門的な部分は金色の「深掘りメモ」にまとめたので、選手はまず本文だけ読めばOK。指導者や、もっと知りたい人はメモまで読んでみてください。
走りは「5つの局面」でできている
ひと口に「走る」と言っても、スタートからトップスピード、そして止まるまで、体の状態はどんどん変わっていきます。大きく5つの局面に分けられます。
| 局面 | 体の状態 | 主に効く力 |
|---|---|---|
| ① スタート/一歩目 | 深く前傾。重心が前 | 水平の力(後ろへ押す) |
| ② 加速 | 前傾を保ちつつ起きていく | 水平の力(継続) |
| ③ 移行 | 上体が起き上がる切り替え点 | 水平→垂直へバトンタッチ |
| ④ トップスピード | 直立。接地は一瞬 | 垂直の力(真下へ叩く) |
| ⑤ 減速 | ブレーキをかける | 止める力(受け止める) |
スタートは体を前に倒して地面を後ろへ押し(水平)、トップスピードでは直立して真下に叩く(垂直)。そして忘れられがちですが、「止まる(減速)」も立派な能力です。サッカーは走るのと同じくらい、急に止まる・切り返す動きが多いからです。
⚙深掘りメモ:各局面の主働筋と運動学
①②加速:地面を後方へ押す水平の力は、股関節伸展筋(殿筋・ハムストリング)が主役。上体とスネを前傾させ、脚をピストンのように動かす。尻だけ先に上がる崩れ方に注意。
③移行〜④トップスピード:接地が重心の真下に寄り、ハムストリングが振り出した脚を引き戻す役割を担う(=肉離れが起きやすい局面)。接地時間は0.1秒前後で、脚を「速く回す」より「硬いバネ」として使い、アキレス腱などの弾性を利用する。
⑤減速:筋肉が伸ばされながら力を出すエキセントリック収縮(大腿四頭・殿筋)でブレーキをかける。ここが弱いと、切り返しが遅くなり、膝・足首の怪我にも繋がる。
とくに⑤の「止める力」は、当院の足首の捻挫を予防するトレーニングで紹介した片足での着地コントロールと、同じ体の使い方です。速く走る力と、安全に止まる力は、実は表と裏の関係なんです。
「いつ鍛えるか」で結果が変わる — 期分けの考え方
もうひとつ大事なのが、1年・1シーズンのどのタイミングで、何を鍛えるかという視点です。行き当たりばったりで「今日はダッシュ、明日は筋トレ」とやっていても、なかなか噛み合いません。
基本の考え方はシンプルで、「土台 → 出力 → 仕上げ」の順で積み上げること。
| 時期 | 狙い | 中心にやること |
|---|---|---|
| 土台づくり | 大きな力を出せる体に | 筋力トレーニング(スクワット・ヒップスラスト等) |
| 出力アップ | 力を"速く"出せるように | プライオメトリクス・爆発系種目・レジステッドスプリント |
| 仕上げ | 実際の走りに変える | 全力スプリント・加速走 |
| シーズン中 | 落とさず維持する | 短い全力走+最低限の刺激 |
ポイントは順番です。土台の筋力がないまま全力ダッシュばかりしても頭打ちになり、怪我もしやすい。逆に、筋力だけあっても実際の走りに繋げなければ速くなりません。積み上げてこそ、力が「速さ」に変わります。
⚙深掘りメモ:ピリオダイゼーション
この「土台→出力→仕上げ」を、専門的にはピリオダイゼーション(期分け)と呼びます。おおまかに筋力期 → パワー期 → スピード期 → 維持期と進めます。
筋力期で最大筋力の土台をつくり、パワー期でRFD(力の立ち上がり速度)を高め、スピード期で競技特異的な速さへ転移させる。オフ〜プレシーズンで筋力・パワーを積み、開幕が近づくにつれてスピード・維持へ移行するのが一般的です。
爆発系・スピード系は疲労の影響を最も受けるため、いずれの時期でもセッションの最初(疲れていない状態)に配置するのが原則です。
現役トレーナーの視点「なんとなく走って、なんとなく筋トレ」では、伸び悩みます。今の自分が土台づくりの時期なのか、仕上げの時期なのか——それを意識するだけで、同じ練習でも効き方が変わってきます。順番を守ること。これが遠回りに見えて、いちばんの近道です。
まとめ
- 走りは5局面(スタート/加速/移行/トップスピード/減速)で、局面ごとに使う力が変わる
- スタート〜加速は水平、トップスピードは垂直、そして「止まる力」も重要
- 減速=止める力は、着地のコントロールと同じ体の使い方(怪我予防とも深く関係)
- 鍛える順番は土台(筋力)→ 出力(パワー)→ 仕上げ(スピード)→ 維持
- 順番を守ることが、遠回りに見えていちばんの近道
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あなたの体は今、何を鍛えるべき?
「順番が大事なのは分かったけど、自分は今どこから手をつければいい?」——その答えは、一人ひとりの体の状態や競技レベルで変わります。S.T.R鍼灸院では、体の状態を見ながら、あなたに合ったコンディショニングをサポートしています。お気軽にご相談ください。
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、効果には個人差があります。トレーニングは自分の体力・年齢・コンディションに合わせ、無理のない範囲で行ってください。