「自分は、ちゃんと食べられてるんやろか」
前回、体が大きくならへんとき、足りてないのはたんぱく質やなくてエネルギーという話を書きました。そうすると次に出てくるのが、この質問です。
足りてるかどうか、どうやって確かめるんか。
先に結論だけ知りたい人へ
計算式はあります。
ただ、計算だけでは分かりません。
計算はやる価値があります。「どれくらいズレてるか」の見当がつくからです。でも判断するのは数字ではなく、体重の動きと、体に出ているサインのほうです。IOCの文書も、そう書いています。
この記事では、計算式とその出し方を実例つきで書いたうえで、なぜそれだけでは足りないのか、そして実際には何を見るのかまで書きます。
「エネルギー不足」は、食べた量の話やない
まず、ここを外すと全部ずれます。
スポーツ医学でいうエネルギー不足は、「食べた量が少ない」という意味ではありません。言っているのはこれです。
食べたぶんから、運動で使ったぶんを引いて、
残りが体を動かすために足りているか。
これをエネルギー・アベイラビリティ(利用可能エネルギー)と呼びます。訳すと「体が使える残りのエネルギー」です。
大事なのは、同じ食事量でも、練習量が増えれば不足になるということです。
| 練習 | 残るエネルギー |
|---|---|
| オフ(0kcal) | 3,000kcal |
| 通常練習(−800kcal) | 2,200kcal |
| 2部練習(−1,600kcal) | 1,400kcal |
食事を変えていなくても、練習が増えた時点で不足に入ります。本人は「今までどおり食べてる」と思っている。ここが、いちばん見落とされます。
そして厄介なことに、練習がきつい時期ほど食欲は落ちます。使う量が増えているのに、入る量が減る。両側から挟まれます。
計算式と、実際の出し方
では計算です。IOCの合意声明(Mountjoy ら, 2023, Br J Sports Med)に載っている式は、これです。
EA =(食べたkcal − 運動で使ったkcal)÷ 除脂肪体重kg
単位は「kcal / 除脂肪体重1kgあたり / 1日」。除脂肪体重とは、体重から脂肪を引いた重さのことです。
順番に出していきます。
① 除脂肪体重を出す
体重 ×(1 − 体脂肪率)です。体重65kg・体脂肪12%なら、65 × 0.88 = 57.2kg。
② 1日に食べたkcalを出す
記録アプリでもかまいません。3日ぶんくらい取って平均します。
③ 運動で使ったkcalを出す
ここがいちばん難しいところです。時計やGPSの推定値、なければ目安で構いません。
④ 式に入れる
| 食べた | 練習で使った | EA | |
|---|---|---|---|
| しっかり食べた日 | 3,400 | 900 | 43.7 |
| ふつうの日 | 2,800 | 900 | 33.2 |
| 食欲が落ちた日 | 2,200 | 900 | 22.7 |
出た数字を、この表に当てはめます。IOCの文書に載っている区分です。
| EA | 意味 |
|---|---|
| 45以上 | 体を大きくする・成長にも足りる |
| 45くらい | 体重の維持と、体の機能に足りる |
| 30〜45 | 減量の領域 |
| 30以下 | 健康に影響が出るとされる領域 |
さっきの例だと、食欲が落ちた日は22.7です。1日だけならともかく、これが2週間続いたら問題になります。
ここまでが計算です。一度やってみる価値はあります。「自分がどれくらいズレてるか」の見当がつくからです。
ただし、この数字を鵜呑みにしたらあかん
ここからが本題です。IOCの文書自体が、この数字について強い注意を書いています。
30という基準について、原文が書いていること
- もとになったのは「座って生活している女性」を対象にした短期間の実験室研究で、しかも少人数
- この考え方は「目安として意図されたものであって、診断の基準ではない」
- 「決定的な臨床の基準値を設けることにはリスクがある」(影響する要因が多すぎるため)
- 健康や成績に問題が出るEAの水準は、個人差・男女差・体の部位による差が大きい
男女差については、さらにはっきり書かれています。
男子でREDsの症状が出る水準は、女子より低いとみられています(おおよそ9〜25)。ただしこれもよく分かっていません。2018年から2022年の研究のうち、男子を対象にしたものは20%しかないと書かれています。
つまり、男子選手が「30を下回ってるからアウト」と判断するのは、根拠として弱いです。逆に「30を超えてるから大丈夫」も言えません。そもそも男子のデータが足りていません。
そして計算そのものにも問題があります。原文は、実際の生活のなかでEAを測るのは負担が大きく、食べたkcal・使ったkcal・除脂肪体重のどれにも誤差が出ると書いています。
| 測るもの | 誤差の出どころ |
|---|---|
| 食べたkcal | 自己申告は少なめに出やすい。記録し忘れる |
| 運動で使ったkcal | 時計やGPSの推定値。実測ではない |
| 除脂肪体重 | 家庭用の体組成計は誤差が大きい。数%ずれると結果が変わる |
3つとも誤差があって、それを掛け合わせた数字が出てきます。小数点以下まで比べる意味はありません。
だから僕は、こう考えています。計算は「ものさし」やなくて「気づくためのきっかけ」です。22.7と出たら「思ってたより食べてへんな」と気づく。その気づきが本体で、22.7という数字自体は本体ではありません。
実際に見るのは、体重の動きとご飯の量
では現場で何を見ているか。2つだけです。
1つ目。体重が、この1〜2ヶ月で落ちていないか。
これがいちばん確実です。計算に誤差があっても、体重計の数字にはごまかしがききません。練習量が変わっていないのに体重が落ちているなら、入っている量が足りていません。
逆に、体重が保たれているなら、少なくとも大きくは足りているということです。
測り方。朝、起きてトイレに行ったあと、同じ服装で。毎日でなくていいので、週に2〜3回、同じ条件で。1日単位の上下は水分なので気にしません。見るのは1ヶ月単位の向きです。
2つ目。ご飯の量が、1ヶ月前と比べて減っていないか。
練習がきつい時期に食欲が落ちると、いちばん減らしたらあかんご飯から減っていきます。おかずは残っていても、ご飯だけ減っている。これが典型です。
自分の茶碗を見てください。それが答えです。詳しくはサッカー選手の食事の基本に書きました。
この2つで足りる理由。計算は3日ぶんの記録が要って、続きません。体重とご飯の量なら、今日から見られて、続きます。精度の高い方法を続けられないより、そこそこの方法を続けるほうが、結局は早く気づけます。
IOCが挙げているサイン
体重とご飯に加えて、体に出るサインがあります。IOCは、EAの計算ではなくこうしたサインの積み重ねで判断する仕組み(REDs CAT2)を出しています。信号機のように、緑・黄・オレンジ・赤で重さを分ける形です。
そこに挙がっているもののうち、自分で気づけるものを出します。
| サイン | 補足 |
|---|---|
| 疲労骨折をしたことがある | 場所と回数によって重みが変わる。繰り返しているなら重い |
| 月経が来ない・間隔が空く(女子) | 3回以上続けて来ない、35日以上あくなど |
| 成長曲線から外れてきた(成長期) | それまでの身長・体重の伸び方から下向きにずれる |
| 気分の落ち込み・不安が続く | 診断を受けている場合はとくに |
| 食べ方が乱れている | 極端に制限する、食べたあと運動で埋め合わせる、など |
| 体重・BMIが低い |
男子については、性欲の低下や朝の勃起が減ることが、エネルギー不足のサインとして挙がっています。書きにくい話ですが、IOCの文書に明記されています。男子は月経のような分かりやすい指標がないぶん、こういうところしか出てきません。
ひとつ注意。これらのサインには、エネルギー不足以外の原因もあります。原文にも、それぞれについて他の病気の可能性を検討する必要があると書かれています。当てはまったら「エネルギー不足で確定」ではなく、「一度きちんと診てもらう」が正解です。
疲れが抜けない、練習しても伸びない、という症状については貧血とエネルギー不足の記事にも書いています。鉄不足が重なっていることもあります。
当てはまったら、どうするか
やることは単純です。足りてないぶんを、食べる量で埋めます。
さっきの例(EA 22.7)で考えます。除脂肪体重57.2kgの選手がEA 40にしようと思ったら、必要なのは 40 × 57.2 = 2,288kcal。運動で900使うので、食べる量は約3,200kcal。いま2,200なので、1,000kcal足りていません。
1,000kcalと聞くと大変そうですが、内訳にするとこうです。
| 足すもの | 目安 |
|---|---|
| ご飯を毎食1杯ずつ増やす(3食) | 約690kcal |
| 練習後におにぎり1個 | 約180kcal |
| 牛乳をコップ1杯 | 約130kcal |
| 合計 | 約1,000kcal |
これだけです。サプリでも特別な食品でもありません。ご飯とおにぎりと牛乳です。
一気に増やすと食べきれないので、まず補食から足すほうが続きます。補食の入れ方は補食のとり方の記事にまとめました。
この場合は、自分で埋めようとせず医療機関へ。
- 疲労骨折を繰り返している
- 月経が3ヶ月以上来ていない
- 体重が落ち続けている(食べているつもりなのに戻らない)
- 食べることに強い不安がある、食べたあと後悔して埋め合わせようとする
- 成長期で、身長・体重の伸びが明らかに止まった
とくに下の2つは、食事の量を増やすだけでは解決しません。専門の人に入ってもらってください。
まとめ
- エネルギー不足とは「食べた量」ではなく「運動を引いた残り」のこと
- 食事を変えていなくても、練習が増えれば不足に入る
- 計算式は(食べたkcal − 運動で使ったkcal)÷ 除脂肪体重kg
- 目安は45以上で足りる/30以下で健康に影響。ただし——
- 30という数字は「診断の基準ではない」とIOC自身が書いている。もとは座って生活する女性の短期研究
- 男子はもっと低いとみられる(9〜25)が、研究自体が少ない
- 計算は気づくためのきっかけ。ものさしとしては誤差が大きい
- 実際に見るのは体重の1ヶ月単位の動きとご飯の量
- サイン(疲労骨折・月経・成長曲線など)が出ていたら受診する
- 埋め方はご飯・おにぎり・牛乳。サプリではない
この記事で参照した資料
- 2023 International Olympic Committee's (IOC) consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport (REDs)(Mountjoy ら, Br J Sports Med, 2023;57:1073–1097) — EA=(摂取エネルギー − 運動によるエネルギー消費)÷ 除脂肪体重。区分は45以上/約45/30〜45/30以下。30という閾値は「座位中心の女性を対象とした少人数・短期の実験室研究」に基づき、「診断の終着点ではなく目安として意図されたもの」であり、「決定的な臨床閾値を設けることにはリスクがある」と明記されている。男性でREDsの症状が出る水準はより低い(約9〜25)とみられるが、2018〜2022年の原著研究のうち男性を対象としたものは20%。実生活下でのEA測定は負担が大きく、摂取量・消費量・除脂肪体重のいずれにも誤差が伴うとしている。REDs CAT2はサインの積み重ねで重症度を判定する仕組み
※ 本記事の計算例は目安であり、実測値ではありません。必要な量は競技・年齢・体格・練習量によって変わります。本記事はスクリーニングや診断に代わるものではありません。
Consultation
食べているのに、疲れが抜けない人へ
食事を増やしているのに体重が戻らない、同じところを繰り返し痛める、練習しても以前のように動けない。そういうときは、食事だけでも練習だけでもなく、そのつり合いが崩れていることがあります。S.T.R鍼灸院では、体の状態を確認したうえで、食事・練習・睡眠のどこから手をつけるかを一緒に決めます。医療機関での検査が必要だと判断した場合は、そうお伝えします。お気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちらS.T.R鍼灸院(大阪・福島区)
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医師による診断・治療に代わるものではありません。効果には個人差があります。疲労骨折を繰り返す、月経が止まっている、体重が落ち続けるなどの場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。