試合の後半、ふくらはぎがピキッとつる。周りからは「水分が足りてないんちゃう?」「塩分とれ」と言われる——おそらく、多くの選手が言われてきたことだと思います。
ところが、この「水分・電解質が足りないから足がつる」という説明、今のスポーツ科学では"主な原因"の座から降りています。この記事では、足がつる本当の仕組みと、現場で本当に効く対策を整理します。
「水分・電解質不足でつる」は、なぜ主流でなくなったのか
この説は100年以上信じられてきました。汗で水分と塩分が失われ、バランスが崩れてつる——確かに分かりやすい説明です。
ですが、これを支えていたのは昔の症例報告や観察による研究が中心で、原因と結果をはっきり示せていませんでした。その後に行われた複数の追跡研究では、つった選手とつらなかった選手のあいだに、脱水や電解質の明確な差が見つからなかったのです。
さらに、決定的な矛盾があります。
もし電解質不足が原因なら、水分と塩分をとれば必ず治るはずです。でも実際には、とっても治らないことがある。逆に、水分にも塩分にも一切手をつけず、ストレッチしただけで治る。——この事実を、電解質説では説明できません。
今の主流は「神経筋疲労(神経の誤作動)」
現在いちばん支持されているのは、筋肉の疲労によって神経のコントロールが乱れるという考え方です。仕組みを噛み砕くと、こうなります。
筋肉には、2つのセンサーがあります。
- 筋紡錘(きんぼうすい)=「縮め!」とアクセルを出すセンサー
- 腱紡錘(けんぼうすい)=「縮みすぎ、緩めろ」とブレーキをかけるセンサー
普段はこの2つがバランスを取っています。ところが筋肉が疲労すると、アクセル側が興奮しっぱなしになり、ブレーキ側の抑制が効かなくなる。その結果、「縮め」の信号が出っぱなしになって、筋肉が勝手に縮み続ける——これが「つる」の正体です。
⚙深掘りメモ:ストレッチで治るのが最大の証拠
つったときにストレッチをすると治りますよね。あれは、筋肉を伸ばすことで腱紡錘(ブレーキ側)が強く働き、「緩めろ」という抑制信号が復活するからです。水分も電解質もまったく変わっていないのに治る——この事実は、電解質説では説明できず、神経のコントロールが乱れているという考え方でこそ説明がつきます。実際、つった直後の対処としてゆっくり伸ばすストレッチが第一選択とされています。
ただし「電解質は無関係」でもない
ここは正直に書きます。「水分・電解質はまったく関係ない」と言い切るのは、行き過ぎです。
今の科学が言っているのは「電解質・脱水は単独の主原因ではない」ということであって、「一切無関係」ではありません。足がつる現象はいくつもの要因が絡み合って起きると考えられていて、神経筋の疲労が中心にありつつ、脱水・電解質・暑さ・体質なども関わってきます。
実際、現場では「マグネシウムをとるようになってから、つらなくなった」という選手もいます。研究レベルでは「マグネシウムで確実につりが減る」とまでは言えていませんが、もともと不足気味だった人が補って改善することは十分あり得ます。合う人には試す価値がある——それが誠実な言い方だと思います。
なぜ「あの選手だけ」繰り返しつるのか
ここが現場でいちばん実感するところです。同じ試合、同じ環境で戦っているのに、つるのはいつも決まった選手。もし原因がその日の脱水だけなら、全員が同じようにつるはずです。
つまり——足がつるかどうかには、その人が持っている「つりやすさ」が大きく関わっているということです。
理由① もともとの「つり閾値」が低い
実は、「どれくらいの刺激でつり始めるか」というつりやすさの境界線(つり閾値)には、はっきりした個人差があります。アクセル側のセンサーが過敏だったり、ブレーキ側の効きが弱かったりすると、少しの疲労でも神経の暴走が起きやすい。これがいわゆる「つりやすい体質」です。
そして、この境界線は疲労すると誰でも下がります。だから「もともと低い人」+「疲労で下がる」が重なると、その選手が真っ先につるわけです。
⚙深掘りメモ:本人が「疲れていない」と感じていても
「そんなに疲れてないのにつった」という選手もいます。ですがこれは矛盾ではありません。全身の主観的な疲れと、特定の筋肉の局所的な疲労は別物だからです。フォームの癖や左右差で、ある筋肉にだけ負担が集中していれば、本人がケロッとしていてもその筋は限界、ということは起こります。また、筋肉が縮こまった状態のときはブレーキ側が働きにくく、つりやすくなります。
理由② 一度つると、つりやすくなる(つり癖)
「一回やってから、同じところばかりつる」——これも神経の話で説明がつきます。理由は3つ重なります。
- 神経が興奮しやすいクセを残す … 一度暴走した回路は、次も暴走しやすくなる
- 筋肉に微細なダメージが残る … 傷んだ筋はセンサーが過敏になり、さらにつりやすくなる
- かばって使い方が変わる … 負担のかかり方が偏り、その筋が局所的に疲れやすくなる
これは、当院の足首の捻挫が"癖"になる仕組みとまったく同じ構造です。一度やる → 体が反応しやすい状態になる → また繰り返す。「つり癖」は「捻挫癖」の神経版だと考えると分かりやすいと思います。
では、どうすればいいのか
先に正直に書いておくと、「これをやれば100%つらない」という決定的な方法は、まだ科学的に確立していません。原因が多くの要因の絡み合いだからです。そのうえで、やるべきことは「つりやすさの境界線を底上げすること」に尽きます。
| 対策 | なぜ効くか |
|---|---|
| 疲れにくい体をつくる | 境界線は疲労で下がる。疲労耐性が上がれば、つる手前を遠ざけられる(これが本命) |
| 段階的に慣らす・暑さに慣らす | 慣れない負荷(久々のハード・灼熱・連戦)は境界線を一気に下げる |
| つった筋をしっかり回復させる | ダメージと過敏さを残さない。中途半端だと「つり癖」が固定する |
| 使い方の癖・左右差を見直す | 特定の筋への負担集中を減らす。繰り返す選手はここに原因があることが多い |
| ウォームアップ・日頃のストレッチ | 神経とセンサーの準備を整える。つりやすい筋は普段からケア |
| 水分・電解質(合う人は) | 主役ではないが下支えにはなる。効く人には試す価値あり |
※ つってしまったときの対処は、ゆっくり伸ばすストレッチが第一選択です。
現役トレーナーの視点つるのはいつも決まった選手です。だから「全員に水分をとらせる」で終わらせても、その子はまたつる。大事なのは、よくつる選手を個別に見ること——柔軟性、左右差、使い方の癖、疲労の溜まり方。原因はひとりひとり違います。単純な答えに飛びつかないことが、結局いちばんの近道です。
!こんなときは医療機関へ
運動とは関係なくつる場合は、ここまでの話とは別の原因が隠れていることがあります。次のような場合は、自己判断せず受診してください。
- 運動していないのに、夜間や安静時に頻繁につる
- つりが非常に強い・長く続く、しびれや脱力をともなう
- 持病があったり、服用している薬がある(薬の影響でつることがあります)
まとめ
- 「水分・電解質不足でつる」は、今の科学では主な原因ではないとされている
- 主流は神経筋疲労説。疲労でアクセル側が暴走し、ブレーキ側が効かなくなる
- ストレッチで治るのが最大の証拠(水分をいじらずに治るため)
- ただし電解質が無関係というわけでもない。多くの要因が絡む。合う人はマグネシウムなどを試す価値あり
- 特定の選手が繰り返すのは、つり閾値(つりやすさの境界線)と「つり癖」があるから
- 対策の本命は疲れにくい体づくり・つった筋の回復・使い方の個別チェック
- 運動と関係なく頻繁につる場合は別の原因もあるため受診を
Consultation
いつも同じところがつる人へ
繰り返しつるのには、その人なりの理由があります。柔軟性、左右差、体の使い方、疲労の溜まり方——原因は一人ひとり違うので、個別に見ていくのが近道です。S.T.R鍼灸院では、つりやすい筋肉のケアや、原因となる体の使い方の見直しをサポートしています。お気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちらS.T.R鍼灸院(大阪・福島区)
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医師による診断・治療に代わるものではありません。効果には個人差があります。頻繁につる、強い症状が続くなどの場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。